売上除外や架空経費を貸付金処理した際、利息を認定しなければならないのはなぜか

 法人にたいする税務調査で売上除外や架空経費が認定された場合に、その流出した金銭を法人の代表者に対する貸付金と認定する場合を考える。

 

 この場合、法人は代表者にたいして金銭を貸し付けていることになるため、利息を認定するという発想がある。これは、営利企業の目的は利潤の追求であり、無利息で貸付けを行うということは通常考えられないからであると説明されることが多いと思う。

 

 しかし、この説明にたいしては、つぎのような反論が想定される。

 

「当社には代表者からの借り入れがあるが、これは無利息である。無利息で借り入れをさせてもらっている相手に、今度は反対に貸付けをする場合に無利息とするのは自然なことである。お互いに無利息で貸し借りがあるだけだ。お互いがそれで合意しているのだから、今回の売上除外(架空経費)についても、利息を認定するのはおかしい。かりに代表者からの無利息借り入れがなかったとしても、当事者間で話して無利息とすることの何が問題なのか」

 

 利息を認定すれば、その分法人としては所得が大きくなり、課される税額も大きくなるわけであるから、上記のような反論をする動機はあるといえる。

 上記の反論は正しいだろうか。それとも、誤りがあるだろうか。

 

 「営利企業の目的は利潤の追求であり、無利息で貸付けを行うということは通常考えられないから」という説明は、十分に根拠を説明しているとはいえない。なぜなら、課税の根拠は税法に求められるべきであり、税法には、「無利息で貸付けを行ってはならない」とは書かれていないからである。ただし、利息を認定しなければならないことの根拠が税法にあるならば、この説明はその根拠法令が定められている理由というか、背景ではあるだろう。ということで問題は、税法に根拠が書かれているのか、ということである。

 

 わたしは、つぎのように説明する。

 

 法人税法22条2項をみてみよう。

 

内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

 

 ここから、無償による役務の提供から益金が発生することが分かる。

 そして、無利息による貸付けが無償による役務の提供にあたるということは、大阪高判昭和53年3月30日判時925号51頁(清水惣事件)がつぎのように判示している。

 

営利法人が金銭(元本)を無利息の約定で他に貸付けた場合には、借主からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、あるいは、他に当該営利法人がこれを受けることなく右果実相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合でないかぎり、当該貸付がなされる場合にその当事者間で通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益が借主に移転したものとして顕在化したといいうるのであり、右利率による金銭相当額の経済的利益が無償で借主に提供されたものとしてこれが当該法人の収益として認識されることになるのである。

 

 ここまで提示した法令と裁判例は、無利息で貸付けをした場合、無償による役務の提供による収益が生じるということを示しているのであって、ここから無利息貸付けをしてはならないということはいえない。もちろん、利息をかけるかかけないかは基本的に当事者間で決定されるべき事項であって、税法はその事実関係に基づいて適用されるだけであるから、無利息による貸付けは当然にありうる。しかし、無利息による貸付けからは収益が生じ、その結果、寄附金が発生すると考えられる。

(仕訳は以下のとおり)

Cash / 収益

寄附金 / Cash

 

 寄附金は損金算入に制限が設けられているため、その結果として所得が発生する場合がある。

 

 以上のような説明である。

 

 したがって、タイトルにたいする答えとしては、「利息を認定しなければならないというわけではないが、無利息とするなら、寄附金の限度額計算を行うことになる」と考えたい。ちなみに、代表者から法人への無利息貸付けについては、所得税法には無償による役務の提供から収益が発生するとの規定はないので、課税関係は生じない。

 

 なお、引用した裁判例が、「合理的な経済目的その他の事情が存する場合」は無利息貸付けから収益が生じないとしていることから、上記の想定反論の内容が「合理的な経済目的その他の事情」にあたるのではないかという疑問が生じるが、これについてはつぎのように考えたい。

 清水惣事件において収益の発生が認定された無償貸付けは、親子関係にある法人間での取引であり、親会社が子会社の事業を援助する目的で行われたものであった。この理由ですら「合理的な経済目的その他の事情」にあてはまらないとされていることを考えれば、上記の想定反論が「合理的な経済目的その他の事情」にあたるとは考えにくいように思われる。